大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)155号 判決

上告人

新国鉄大分地方労働組合

右代表者

小林寿亀

右訴訟代理人

安部萬年

被上告人

国鉄労働組合大分地方本部

右代表者

鈴木一馬

右訴訟代理人

大野正男

外三名

被上告人

株式会社西日本相互銀行

右代表者

森俊雄

被上告人

株式会社伊豫銀行

右代表者

梅村源一郎

被上告人

株式会社豊和相互銀行

右代表者

池田平治

被上告人

株式会社大分銀行

右代表者

木下常雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人安部萬太郎の上告理由(一)第一点ないし第三点及び同安部萬年の上告理由第一点について。

原審の認定するところによれば、従前の国鉄労働組合大分地方本部(以下、元大分地方本部という。)は、法人格を有する単一組合である国鉄労働組合(以下、国鉄労組という。)の下部機関の一つであつて、大分鉄道管理局に勤務する国鉄労組の組合員をもつて組織され、国鉄労組の規約や大会決議によつて拘束を受けるものの、自己固有の代表者、決議及び執行の機関を有し、地方本部規約、会計規則等を具え、国鉄労組の方針に反しない範囲内で自主的に活動することを承認され、その財政的基礎は、国鉄労組本部からの交付金のほか、地方本部が所属の組合員から独自に徴収したものによつて形成され、これら自らの責任においてその活動の用に供し、対外的にも自己の名で財産上の取引等を行なつていた、というのであり、右認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らして肯認することができる。これによれば、元大分地方本部は、国鉄労組の統制下にあるとはいえ、それ自体独立の団体としての組織を有し、代表の方法、財産の管理等団体としての主要な点についての定めがあり、かつ、構成員の変動にかかわらず団体として同一性を保持するものであつて、国鉄労組とは別個の存在を有する権利能力なき社団としての実体を具えていたものと認められる。そして、このような権利能力なき社団の資産がその構成員に総有的に帰属するものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(オ)第九六号同三二年一一月一四日第一小法廷判決・民集一一巻一二号一九四三頁、昭和三五年(オ)第一〇二九号同三九年一〇月一五日第一小法廷判決・民集一八巻八号一六七一頁)。したがつて、右と同趣旨において原判示の預金を元大分地方本部の固有の資産であるとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

また、原審は、所論のいう昭和三九年一〇月八日の元大分地方本部の組合大会なるものについて、当時同地方本部内において表面化しつつあつた国鉄労組脱退の動きに対し後記のように国鉄労組本部から統制権が発動されることとなつたため、右脱退賛成派の一部の者が対策を協議するために集合した非公式の会合にすぎず、規約に従つて開かれた正規の組合大会ではなかつたとの事実を認定したうえ、右大会の決議により元大分地方本部が組織をあげて国鉄労組から離脱したとする上告人組合の主張を排斥しているのであつて、右認定判断もまた、原判決挙示の証拠に照らし相当として是認することができる。この点に関する論旨は、ひつきよう、原審の認定と異なる事実を前提として原判決の違憲、違法をいうものにすぎず、採用することができない。

上告代理人安部萬太郎の上告理由(一)第四点について。

原判決の判文に徴すれば、所論の点に関する原審の認定判断に所論の違法のないことは明らかである。論旨は、原判決を正解しないものというほかなく、採用することができない。

同第五点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠によつて肯認しえないものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

上告代理人安部萬太郎の上告理由(二)及び同安部萬年の上告理由第二点について。

按ずるに、元大分地方本部は、それ自体独立の社団ではあるが、単一組合である国鉄労組の構成分子として存在する一地方組織であり、その目的、機能も限定され国鉄労組の方針に反しないかぎりで自治を承認されていたにすぎないことは、先に判示したとおりである。全国的な規模を有する国鉄労組においては、組合本部が直接各組合員を把握し、内部統制を維持することが困難であるところから、地域別に地方本部等の下部組織を設け、これらの組織を通じて末端の組合員を把握し、組合活動及び内部統制を円滑かつ実効的ならしめるとともに、その組合活動にできるだけ末端組合員の意思を反映させるため、地方本部に前記の限度の自治を認めているのであつて、国鉄労組の組織上、地方本部の社団としての独立性も本来国鉄労組の内部的構成分子としての制約を免れることはできないものと解される。この点において、もともと独立した成立した企業別組合が単一組織の上部組合を結成し、企業別ごとに支部と称している場合のように、下部組織の上部組合に対する独自性が強く、上部組合は各支部の連合体のごとき実体しかもたない組織とは、異質のものと認められる。そして、右のように地方本部が国鉄労組の規約によつて存在を認められた下部組織である以上、その構成員が全くなくなつたために自然消滅する場合のほかは、国鉄労組の規約の変更によつて当該地方本部を廃止することが決定された場合でなければ、地方本部そのものが消滅するということはありえず、地方本部の組合員の多数が国鉄労組の方針に反対して集団的に離脱したため、地方本部が事実上二分されたような場合においても、従前の地方本部に国鉄労組の方針に従う組合員がなお残留し、引き続き地方本部としての団体活動を継続しているかぎりは、右残留組合員の組織する地方本部が従前の地方本部と同一性を有するものとみなければならない。

ところで、労働組合において、運動方針等をめぐる組合員間の対立から、組合内部に相拮抗する異質集団が成立し、その対立抗争が激しく、そのために組合が統一的組織体として存続し活動することが不可能若しくは著しく困難となり、遂にその異質集団に属する組合員が組合を離脱して新たな組合(以下、新組合という。)を結成し、旧組合の残留者による組合(以下、残存組合という。)と対峙するに至るという事実上の分裂現象は、しばしばみられるところである。所論は、右のような組合の事実上の分裂を単なる集団脱退と区別し、この場合には新組合も残存組合も旧組合と同一性を有しないから、公平の観念上、双方の組合に旧組合の資産に対する持分を認めるべきであるとの見解を前提として、本件において元大分地方本部は後記のような内部的対立により上告人組合と被上告人地方本部とに分裂したものであるから、元大分地方本部の資産であつた本件預金については、上告人組合も権利を有する旨を主張する。

しかし、前記のような国鉄労組地方本部の下部組織としての特殊な性格からすれば、地方本部における組合員の集団的離脱が、当該地方本部の資産の帰属を問題とする関係において、所論のいう分裂にあたるものか、あるいは単なる集団脱退にとどまるものかについては、国鉄労組の組織全体との関係からこれをみるべきであつて、その資産が地方本部に属することのゆえに、国鉄労組全体と切り離し地方本部だけに局限してこれを論ずるのは、下部組織としての制約を軽視するものといわなければならない。すなわち、地方本部において国鉄労組の方針に反対する組合員の集団的離脱があり、地方本部を独立の組合としてみれば事実上の分裂を生じたかのごとき観を呈するとしても、国鉄労組そのものが統一的組織体としての機能を保持するかぎり、それは一部組合員の国鉄労組からの集団脱退にほかならず、そうである以上、右離脱組合員又はその結成した新組合は、国鉄労組本部の資産についてはもちろん、地方本部の資産についても、持分ないし分割請求権を有するものということはできない。地方本部の資産についてまで、離脱者集団の権利を認めないことは一見公平を失するかのごとくであるが、もともと、地方本部の資産は、その地方本部が国鉄労組の下部組織として同労組の方針に従つた自治活動を認められ、かかる活動のための物的基礎をなすものとして形成されてきたものであるから、国鉄労組から脱退しこれとの関係を断つて独立の活動をしようとする離脱者集団が右資産について権利を主張することのできないことは、やむをえないところであつて、これをもつて、あながち不合理不公平であるということはできないのである。

ところで、本件において原審の確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。

国鉄労組は、その基本的な運動方針として社会党支持を明らかにし、下部機関に対しては県労働組合評議会への加盟を要求していたが、元大分地方本部内においては、かねてから右方針の支持派と反対派とが対立し、久しく抗争を続けた結果、昭和三九年二月の大会において遂に反対派が多数を占め、民社党支持、県労働組合評議会からの脱退、同盟加入を決議し、同年九月の大会においても再びこれを承認し、執行部を反対派で固めるに至つた。これに対し、国鉄労組本部は右決議の撤回を求めたが、同地方本部の執行部がこれに応じなかつたので、同年一〇月八日、国鉄労組本部は、規約に基づく統制処分として、右地方本部執行部役員の執行権等を停止し、その代行機関を設置した。ここに至つて、同地方本部内の前記反対派は、国鉄労組と袂を分かつて独自の行動に出るほかないとし、同月一六日、旧執行部役員を含む約二六〇〇名(同地方本部の当時の組合員総数の約三分の二)が参加して新たに上告人組合を結成するとともに、国鉄労組本部に対して同人らの脱退届を一括提出した。しかし、元大分地方本部には国鉄労組支持派に属する組合員一二〇〇名がそのまま残留し、旧構成員及び役員の多数を失つたことによる解体の危機を克服して組織を立て直し、従前からの国鉄労組規約及び同地方本部規約に基づき国鉄労組の地方下部組織としてこれを組織運営しており、これが被上告人たる現在の国鉄労組大分地方本部である。

以上の事実関係に徴すれば、元大分地方本部は、国鉄労組の方針に従うかどうかをめぐつて事実上二派に分かれ、これに同労組本部からの介入も加わり、地方本部としての統一的活動が困難になつていたことは否定できないけれども、国鉄労組の組織全体との関係からみれば、同労組の下部組織として同一性を保持しているのは被上告人地方本部であつて、前記反対派の離脱は、ひつきよう、国鉄労組の方針に服することを好まない組合員が集団的に同労組を脱退したにすぎないものと認めるほかはない。してみると、右脱退者によつて結成された上告人組合には元大分地方本部の資産であつた本件預金に対する権利を認めることができないことは、先に説示したとおりであり、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認すべきである。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、独自の見解に立脚して原判決を非難するに帰し、すべて採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸盛一 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸上康夫)

上告代理人安部萬太郎の上告理由(一)

原判決には憲法の解釈を誤り、憲法に違背があり、又は判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背があり、且判決に理由を附せず、又は理由に齟齬があると認められるから、民事訴訟法第三九四条、第三九五条第一項六号に規定する事由に該当し、とうてい破棄を免れないものと思料する。よつて以下にその理由を述べる。

第一点 原審の認定した事実と理由との要旨

一、国鉄労働組合大分地方本部名儀の財産(預金、預金通帳、不動産)の帰属関係

(一) 元大分地方本部は単一労働組合にして法人格ある国鉄労働組合(国鉄労組)の下部機関の一つであるが、大分鉄道管理局に勤務する国鉄労組員を以て組織され、固有の代表者、決議及び執行機関を有し、地方本部規約、会計規則等を具え、国鉄労組本部の規約ないし大会決議によつて拘束は受けるものの、その方針に反しない限り自主的な行動をとることを承認され、その財政的基礎は原則として組合員から徴収した組合費を一旦国鉄労組本部に上納し本部から配分される交付金の形式をとるもののほか、地方本部のために定められた組合で一括徴収の際に同本部において分離取得するもの、その他独自の臨時費又は積立金等から形成され、これを独自の責任において自己の用途に供し、対外的にもこれに基いて各種の財産上の取引を自己の名においてなし、実質的に社団として独立の活動をなし来つたものであることが認められる。右によれば、元大分地方本部は所謂法人に非ざる社団として固有の財産を総有的に所有し得るものと解される(つまり、その財産帰属の関係は、実質的には同地方本部を構成する総組合員の所謂総有に属するものである)。

(二) しかして、元大分地方本部の活動資金は大分地方本部が独自に徴収積立をしたものから成り、また事務所建物は同じく大分地方本部が組合員の供金により建築されたもの、地方本部独自の責任においてその自主的活動の用途に供されるものであること、右資金並不動産の帰属及び利用関係の主体は包括的に地方本部構成員から成るものと考へられ、特別に新たな加入者から負担金を求めたり、転勤等により地方本部の構成から離れる者に対して財産持分の払戻等の措置も何等考へられていなかつたこと、そして夫れ等財産は大分地方本部名儀で預金され、不動産は代表者名儀で登記されていることが認められるので、それ等財産は法人に非ざる社団たる元大分地方本部固有の財産(法人たる国鉄労組の所有財産ではなく)として、これに総有的に帰属していたものと認めるのが相当である。結局法人に非ざる社団たる元大分地方本部の財産(つまり実質的には、その全構成員の総有に属する財産)と認むべきである。

二、元大分地方本部が新国鉄大分地方労働組合(以下新国労と略称する)であるとの主張についての判断

(一) 国鉄労組はかねて社会党支持、県労評加盟の基本的な運動方針を明らかにしていたところ、甲斐信一を執行委員長とする元大分地方本部執行部並びに組合員相当数は右方針に同調せず、昭和三九年二月の地方大会において、民社党支持、県労評脱退、同盟傘下に入ることを指向し、これを決議して独自の運動方針を打ち出し、同年八月の大会においても重ねて右同様の決議をしたこと、これに対し国鉄労組本部は右決議の撤回を求めたが右地方本部役員等において承服せず、遂に本部の統制に違反するとして本部規約に則り同年一〇月八日闘争指令第八号をもつて右甲斐ほか地方本部執行委員等七名の執行権、選挙権、被選挙権停止の処分を行うとともに、執行委員会の代行機関を設置し、その長として訴外中田哲夫を指名する旨通告するに至つたことその後同月中に、右執行委員等の大半を含む約二、四〇〇名(当時の地方本部組合員数の約三分の二に相当する)の組合員が国鉄労組からの離脱を唱へて直接国鉄労組本部に対し脱退届を提出し同月一六日これらの者が相集つて新国鉄大分地方労働組合として発足することを決議した。

そのほかには大分地方本部規約に定める地方大会の決議を経たことがない。(同年一〇月八日本部の専制を排除するため大分市内の偕楽荘において相当数の組合員による会合が催され元大分地方本部の全組織を挙げて国鉄労組から離脱すること等の決議がなされたことは、これを窺うに足りるけれども大分地方本部規約による役員三分の二以上の出席を欠き一三三名中四八名が大会開催の通知を受けなかつたし、当日の会合は執行部が翌九日に予定していた組合大会に先立ち中央からの処分の問題が急速に現実化したため国鉄労組からの離脱に同調する役員、代議員等が急拠会合して今後の方針を協議したものと認めるのが相当である)。

(二) そして単一組合である国鉄労組の下部機関としてこれに包摂される大分地方本部が、組織ぐるみ、その団体としての同一性を保持しながら国鉄労組から離脱して別個独立の組合になるというようなことは、いかなる場合いかなる手続によつて可能であるか一個の問題であるけれども、少くとも離脱しようとする地方本部の側の意思決定としてかかる重大な事柄が規約に定める大会以外において決定されることは許されないと解せられるところ斯の如き大会決議がなされた事跡を窺ふに足る証拠もない。

三、組合分裂に関する問題について

(一) 前記二の(一)が事実を認定

(二) 従前一個の社団としての国鉄労組大分地方本部を構成していた組合員が事実上二派に分かれ、同地方本部が集団社会現象として二個の社団に分裂したことは否定しがたいけれども、前認定の事実関係からすると、現在の国鉄労組大分地方本部は、従前からの組合員らによつて従前からの国鉄労組規約および大分地方本部規約に基き組織運営されているもので、右にいう分裂により旧構成員の多数を失つたとはいえ、解体崩壊の危機を克服し組織をたてなおして今日に至り、前後国鉄労組の地方下部組織としての同一性を保持していることは明というべきである。反面、地方本部を拳げて組織ぐるみ国鉄労組から離脱するという意図をもつて脱退届を通常の場合の提出先である地方本部でなく、ことさら直接本部宛に一括郵送する方法をとつているとはいうものの、結局のところ国鉄労組の運動方針にあきたらず離脱を申し合わせて集団脱退したにとどまる。

(三) 従つてこれら脱退組合員は当然には組合財産につき持分ないし分割請求権を有するものではなく(最高裁判所昭和二七年(オ)第九六号昭和三二年一一月一四日判決参照)まして脱退組合員らによつて組織されたにすぎない新国鉄大分地方労働組合が持分ないし分割請求権を有するものと認むべき根拠はない。

(四) 労働組合が事実上分裂したときは分裂によつて生じた各組合に組合財産につき持分ないし分割請求権を認むべきである、とする説があるけれども、労働組合も労働法上ないし一般公私法上の権利義務の集中帰属すべき法主体であつて、その精神から考へても、また労働者の団結の擁護を旨とする労働組合法の精神からしても、一般の法人ないし社団と区別し、特に労働組合にかぎつて分裂という名の無方式の法主体の分裂を肯定する理由は見出しがたく、これらの説も具体的に単なる集団脱退と分裂とをいかなる点で区別し、いかなる時点をもつて分裂の効果発生時とするのか、分裂による組合財産(特に消極財産たる債務)の分割承認の関係を他の法概念との関連においてどのように構成するのか、等の諸点について明瞭を欠き、にわかに賛同することができない。故に従前国労大分地方本部の財産は、現に同地方本部と同一性を保持する現在の国労大分地方本部の総有財産であるといわなければならない、として上告人の主張を排けた。

(五) 第一審裁判所は、いわゆる分裂を認め、上告人の主張を認容した。

第二点 原審は元国鉄労働組合大分地方本部名儀の財産(御庁昭和四三年(ネオ)第一二九号事件の事務所建物、同昭和四三年(ネオ)第一二八号事件の預金、同昭和四三年(ネオ)第一二七号事件の預金通帳、同昭和四三年(ネオ)第一二六号事件の預金)の所有権者すなわち右財産の帰属者たる権利主体について憲法違反並に法律の適用につき次の誤を犯しており該誤りは判決に影響を及ぼすことが明らである。

(一) 原審は、元国鉄労働組合大分地方本部は所謂法人に非ざる社団として固有の財産を総有的に所有し得るものとし、前記の各財産は右地方本部に帰属すると判断しているが、国鉄労働組合は登記されて法人格を有し、全国に組織をもつ、単一の労働組合であり同組合大分地方本部は右国労の下部組織に過ぎないから右地方本部は、それ自体としては権利能力を有しないことは、二重組織を認められない今日の法制下では明白である。

それならば分裂(移行)前に於ける各種財産の権利主体如何。結局右法人の下部組織たる元大分地方本部は権利の主体となり得ないのであるから本件財産は、元大分地方本部を組成する組合員全員の所有に属した。原審が元大分地方本部の所有であつたと認めたことは法人理論の解釈を誤つて適用した違法があると信ずる。

(二) 原審は元大分地方本部が組織ぐるみ国労から脱退し新国鉄大分地方労働組合に移行したとの上告人の主張を排斥したが、上告人の主張には三つの意義がある。その一は、規約並機関をそのままの状態で労働組合を維持存続せしめること、二は、国労の支配下から完全に離脱し独自の立場で行動し得る完全独立の組合とすること、三は、組合名儀の財産は総べてそのまま帰属せしめることである。

右行動を否定することは、憲法第二一条第二八条に違反して許されない。

(三) 原審は右手続について、組合規約に定めがあるか、組合大会に於て決定(三分の二の組合員の賛成を要し)する場合以外には許されないものであり、本件の場合規約が存しないし、規約に定むる大会決議がなされていないから、元大分地方本部が新国鉄大分地方労働組合に代つたことは認められないとした。

元大分地方本部が昭和三九年一〇月九日に組合大会を開催しようとしたが、その前日である同年同月九日夕刻に、国労中央本部が管外組合員約百名を以て組合事務所を強引に占拠し、執行委員八名中三浦義正一名を除く執行委員(地方本部大会で自主的に選挙せられた)全員に対し権利の行使を停止する指令を発した。しかし国労中央本部が地方本部の自主性を否定し強く介入する専制的規定が、非民主主義的であつて憲法第二一条第二八条に違反し、無効の規定であるのにかかわらず同規定に基ずいて、大分地方本部が当然有する支持政党選択の権利を強引に妨害する目的(中央本部幹部の意に絶対服従せしめようとの目的で)統制違反に名を借て執行委員としての権利の行使を停止する指令が同様憲法に違反し権利の乱用となる無効の指令であるのに不均不法にも大分地方本部の正当な組合大会開催を妨害したものである。かかる情勢のもとで止むなく同月同日「偕楽荘」に於て急拠組合大会に切り替へてなされた決議であるから原審認定の組合役員数からすれば適法な大会決議がなされたと解すべきであると信ずる。

右指令書は同月八日午後六時頃一旦被処分者等に呈示されたがそれは受領を拒絶されたのみでなく右呈示は同日午後五時組合大会決議後であつたから組合大会決議の効力に影響はない。

また、もしも、国労中央本部の妨害なくして組合大会が同月九日に開催されたとすれば新国労加入者が総組合員の三分の二に相当すること、執行委員八名中七名及多数の組合各役員が同調していた情勢からすれば、右離脱の決議は容易に可決されたと推測される。

みずから大会開催を妨害した国労中央本部及それと意を同じくし行動を共にした元大分地方本部組合員が右大会の決議を「云々すること」は能はないものといわねばならない。

よつて一〇月八日の「偕楽荘」における決議は有効であると解さねばならなかつた。

(四) 原審は右のように国労中央本部の元大分地方本部へ対する強い介入の権利を認めで元大分地方本部の独立性を否定しながら、反面元大分地方本部が財産権の所有者たり得る(権利主体)と解したことは理由齟齬の違法がある。

(五) 本件財産は、国労大分地方本部が所有し得なく、従つて同労組構成員たる組合員総員の所有(総有理論については後に述べる)に属するから原則的に同組合員の意思決定により処分し得ると解さねばならない。

右組合員の意思決定は総員の同意を意味するものでなく、多数決原理によつて決定される、と解さねば多数人の集合体の意思決定は遂に不可能の結果を招くことは経験則にてらして明である。元大分地方本部の叙上の決議は有効に決定をみたのであるから、本件の財産は其後改称せられた新国鉄大分地方労働組合員総員の所有財産である。(新国鉄大分地方労働組合が新に結成されたと解しても、結成せらる可き新組合の総組合員の所有とすべきことが決議されていた趣旨であると解せられる。)そして新国鉄大分地方労働組合もまた、当事者適格を有する組合である。

第三点 原審は最高裁判所昭和二七年(オ)第九六号昭和三二年一一月一四日判決を援用して本件財産は元大分地方本部組合員の総有に属すると判示した。右最高裁の判例が原審の認定した事実関係のもとにおいても援用せらるるとすれば右判例は変更せらるべきであつて、これを変更しなければ、経験則、社会正義に反すると信ずる。

(一) 原審は本件に総有概念を導入した。大分地方本部規約第一六条四号では「一件一〇万円以上の資産の処分」は大会で決めることを定めておるから、反面解釈では総組合員の同意を要せずして処分し得ることを規定している。同規約第二三条は「脱退した者、除名された者は組合に対し、すでに納入した組合費及び一さいの組合財産の返還または分与を請求することが出来ない」旨を規定している。(本件の場合脱退者でないことは後に述べる通りである)。右両規定制定の必要は、元来労働組合(法人に非らざる)資産は当然には総有でなく、各組合員の共有若しくは合有なるが故に規定せられたものと解される。若し、当然総有であるとすれば、右第二三条を規定する必要はなかつた筈である。

そもそも、総有概念は近代法制前の世代に於ける村落有或は村落民共有(何々部落有、何々組有、何某外何名持或は頼母子講等々)関係を近代法制下に於て総有理論を以て理解しようとし、現行民事訴訟法制定に際し、その権利行使の統制のため同法第四六条に於て非法人の当事者能力を認むる旨を規定した経過とに鑑ると、自然発生的な財産の存在について、法律適用の問題が生じたのに過ぎずして、総有法規の存在を確して、それに基いて財産が所有されたり、集積されたものではない本件に於て、当然総有の観念を導入することは軽卒に失すると信ずる。

元来多数人の集合体(組合)に蓄積せられた財産は当然には各組合員の共有に属する。(労働組合も法人格を有しない限りに於いては組合に過ぎないと理解せざるを得ないから)しかし、集積の目的、経過、処分が各人の持分による当然の権利行使が妥当でないとき、始めて合有乃至総有の観念を導入して処理すべきものである。

原審認定の事実関係に於ける本件組合員の分裂事態が発生した場合において(分裂でないことは前に述べたとおりであるし、詳細は後に述べる)本件財産を総有関係にあると法律上の評価をすることは妥当でない。組合本来の姿に立ち帰つて評価されなければならないと信ずる。そうすると、前叙「偕楽荘」における財産の処理に関する決議(合意)は、離脱(国労中央本部からの)の決議(合意)とともに有効であると解さねばならない。

第四点 〈省略〉

上告代理人安部萬太郎の上告理由(二)

〈省略〉

上告代理人安部萬年の上告理由

(本上告理由書において次のとおり略称する。

一、国鉄労働組合を国労・国鉄労組

一、分裂以前の国鉄労働組合大分地方本部を元大分地方本部・元地方本部

一、分裂後の国鉄労働組合大分地方本部を現大分地方本部・現地方本部

一、新国鉄大分地方労働組合を大分地方労組と各略称することがある。)

第一点 原判決は、次のごとく経験則違背法令違反理由不備(そご)の違法がある。

一、原判決は、元大分地方本部は単一労働組合にして法人格ある国鉄労働組合の下部機関の一つであると判示している。

(一) 右「下部機関」なる用語は、元大分地方本部が単一の法人格を有する社団としての国鉄労組のいかなる機関即ちいかなる行動を司どる機関であるのかその意味は不明確であるが、国鉄労組規約第七条が「組合に地方本部を置く地方本部は、各鉄道管理局相当地域ごとに設け、その地方における主たる行動と団体交渉の単位とし決議執行の機関とする。」と規定するので、地方本部は国鉄労組規約で設置され各鉄道管理局相当地域において、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上のための活動をなす(国労規約第三条、第四条、元大分地方本部規約第二条、第三条参照)権限を委譲された国鉄労組の一機関、即ち国鉄労組の活動のうち当該地域における事項につき活動の権限を有するという意味において国鉄労組たる社団の機関であつて、従つて地方本部の右事項に関する活動(決議、執行)の効果は、社団たる国鉄労組の活動として、国鉄労組自体に帰属するものと考えられる。

これは社団法上の当然の理論であり社団の一機関としての行為は、社団以外の主体の行為とされることはない。

更に、国鉄労組規約によれば地方本部は代表者(地方執行委員長)決議機関(地方大会)執行機関(地方執行委員会)等から構成されている(国労規約第一六条、元大分地方本部規約第一二条、第一五条ないし第一九条、第三三条参照)が、厳密にいえばこのような機関により合成された全体としての一つの地方本部が、国鉄労組の一つの機関としてあるわけでなく地方本部は、前述の意味における国鉄労組の機関としての代表者決議及び執行等の各機関に分離して把握さるべきもの、若しくはこの各機関を便宜上総称したものと考えるべきである。(それゆえ以下地方各機関ともいう。)

社団の機関を考えるとき代表、決議執行の各機関を合成して一つの機関として概念すべき法律上の必要はない。

それで、地方大会(決議機関)において当該権限内の事項についてなした決議は、国鉄労組の決議であり、国鉄労組の規約大会の決議(国鉄規約第一八条、第一九条)ないし地方本部の規約地方大会の決議に基き地方執行委員長(代表者)のなした行為は国鉄労組の行為である。

(二) 次に地方本部規約、会計規則等についても、国鉄労組規約第五五条により、前述の意味における国鉄労組の機関たる地方各機関が活動するため、機関たる地方大会自身にその設定権限が委譲されたものであり(同条にいう「地方本部」に規約設定権を認めるという意味はこのように地方大会に設定権を認めるということであつて、決議、執行、代表機関等の総称でしかない地方本部に設定権を認めるということは概念上不合理である。)地方大会は国鉄労組の機関たるがゆえに、社団たる国鉄労組の最高法規たる国鉄労組「規約に反しないかぎり」において地方本部規約、会計規則等を設定できるのであり、社団にあつて一つの機関にその機関ないしその機関に対応する機関のために規則を制定する権限を与えることは認められることである。

されば、(一)の当然の帰結として、これら規約、規則は社団たる国鉄労組の規約(国労規約)と一体をなすものである。

(三) また、国労本部へ上納しない地方本部どまりの組合費、臨時費、徴収、対外的取引等についても前(一)(二)で見たように社団たる国鉄労組の機関たる地方各機関の活動のため、その限りで必要な費用の徴収権限等を、規約、規則設定権の内容の一つとして、委譲されたものである。

これらの経済的行動は代表機関たる地方執行委員長が司どるが、その効果は前(一)(二)で見たように国鉄労組に帰属するので、その会計処理は国労本部で行うべきところこれを行わない点変則的であるところ国労規約第四九条により国労本部が「地方本部」の会計監査を行うこととしておる。

ただ、資産の所有、管理、処分についてはことに不動産にあつては法人格ある社団の場合登記された代表者が、これを司どらなければならないが、この点国労規約第四五条は当然のことながら「組合の資産の管理又は処分はそれぞれの機関の決議を得て中央執行委員長が行う」と規定し、このことは元大分地方大会において事務所建築の決議をした際、国鉄労組の名義にすることを申出たことに合致する。

二、されば右に見た元大分地方本部なる地方各機関、規約、規則、資産、収入、取引活動、団体交渉等が、社団たる国鉄労組のものでなく、それとは別個の法人格なき独立の社団たる元大分地方本部のもの、それに個有のものと認定する原判決は、著しく経験則に違背しかつ法令に違反すること明らかである。

さらに原判決は、右の地方各機関、規約、規則、その他、資産、収入、取引活動、団体交渉等が独立の社団たる元大分地方本部の独自、個有のものと認定するが、これらのものがなにゆえに国鉄労組の機関たる元大分地方本部なる地方各機関のものでなく、独立の社団たる元大分地方本部の独自、個有のものであるとするのか全く根拠がなく理由が不備である。

また、ある社団が一定の事項につきそれを処理させるため、ある決議、執行、代表の各機関を設置した場合これらの各機関を総合して見るときその一定の事項につきあたかも一個の社団としての形式が備つているように見えても、これらがその社団の機関である以上その社団以外の独立の社団と認められないのは、社団法理の根本原則である。この点からも法令に違反すること明らかである。

また、国鉄労組の機関としての元大分地方本部(各機関)の外に法人格なき独立の社団たる元大分地方本部を認めると元大分地方本部の名でなした行為、活動が機関としてのものであるのか、独立の社団としてのものであるのか全く不明であり元大分地方本部と取引する第三者に不測の損害を与えることは必至である。

要するに「法人格なき独立の社団たる元大分地方本部」なる団体を認定し、これに当事者能力ないし財産権の主体たる資格を認める原判決は重大な経験則違背、法令違反、理由不備の違法がある。

三、(一) 仮りに本件財産が国鉄労組に帰属しないとすれば国鉄労組の機関たる元大分地方本部と人的範囲において一致する別個独立の団体に帰属するものと解さざるを得ない。(前述のごとく法人格なき独立の社団たる元大分地方本部なる概念はこれを否定しなければならないからである)

(二) そこで、非法人社団の財産の帰属について考えるならこれは、構成員の合有と解さなければならない(川島、民法(三)二八九頁、三宅、労働法大系三四頁、山中、新労働法講座二四六頁等)。これに反し原判決は、非法人社団の財産は構成員の総有とする。

(a) 総有ならば財産の管理権能は社団に帰属し、収益権能は各構成員に個別的に帰属すべきところ(我妻、民法講義(Ⅱ)二一〇頁)、本件財産につき各組合員が個別に収益するという観念の入る余地はない。

(b) 社団にあつて、ただ各構成員が持分権の処分や分割請求権の行使を許さないというために総有というのであれば、同じ目的は合有と解しても達せられる。(我妻、前掲二一一頁参照)。

(c) 社団の財産につき社団が解散(消滅)した場合にも総員の同意がなければその処分が出来ないということは公益法人の場合ですら定款ないし総会の多数決議で定款変更しその処分ができ(民法七二条一項、第三八条一項)そのとき各社員に財産分割請求権をも認めることが可能であるのに比し不均衡でありまた、社団法理上は分割請求権を認むべきである。(商法四二五条、一三一条、有限会社法七三条参照なお吾妻註解労働組合法三〇三頁、柳川他、判例労働法の研究一三六頁、石井、労働法大系八七頁、荻沢、総合判例研究叢書労働法(5)一一頁参照)。ただ分割請求権を認めると脱退した元構成員との間でアンバランスが生じるかに見えるが、既に脱退した元構成員は脱退まですでに社団に加入した利益を充分に享けたものと考えられる。

(d) また団体的色彩の強さ、即ち構成員の増減変更が社団の存立に影響しないということから総有というのであれば、なにも前近代的なかかる概念を持出すまでもなく、また総有、合有、共有という概念が共同所有形態の理想型であることを考えるとき、非法人社団の所有関係につき、種々のニュアンスを考慮しなければなるまい。

かくして、非法人社団の所有関係は合有と解すべきところ原判決はこれを総有としているのは、著しい経験則違背法令違反の違法がある。

第二点 〈省略〉

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